いつかの冬
風呂奴

虹色の鱗を降らせるように
両手いっぱいの朝が帰還した
残雪の厚化粧を落とし忘れた山の稜線
ゆたかな崖の丸みを隔てて
磐井の流れが
怒号のように冬の重荷を河口へと吐き出す
薄氷は大地を鮮明に奏で、
鳥のつぶやきは洗い浚いに、
庭中が春をはためかせる

足下は一面が
台詞になった落ち葉たち
意味のない象形は新しい季節を伝書して
それでも僕は馬鹿だから、
そのほとんどを掬いとれない



ひとりの老人が、黙々と杉の葉っぱを掻き集め
もくもくと冬の終わりを燃やしている
衝突する火の粉が静けさの朝を
少しだけにぎやかにする
冬は「今年」の檻から放たれ
また僕や老人の
決して立ち寄ることのない
いつかの冬になってしまうのか、
火葬されるように、
燃える草木は見守られ
死人のように、
無常さと新しい予感を置いてゆく、

季節が、燃える、
冬の肉体が、春の内膜に、
蒸発し、染みわたる、
悲しみを、遠くに、
追い返すように、
まるで、祈りを、
永遠に、昇らせるように、


自由詩 いつかの冬 Copyright 風呂奴 2013-03-25 02:41:14
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