転勤族のふるさと自慢その1
Dr.Jaco

仕事の都合で青森へ移り住み早2年、3回目の冬を迎えた。記録的な暖冬と思った矢先、
一昨日から40cmの降雪。やっぱり、「毎日毎日ま〜いにち」雪掻きするのである。
庭先のガレージにロードヒーティングを導入した家を見ながら最寄りのバス停へと、こ
けそうになりながら歩く毎日がまた3ヶ月続く。
最初は恨めしかったこの土地にもようやく愛着に似たものが産まれて来た。後から転勤
して来た人にウンチクを垂れるのも一興。津軽弁のイントネーションは未だに慣れず、
時々平衡感覚がおかしくなるが、最近では出てしまうこちらの関西弁(ほんとに北東北
に関西弁は似合わない)はあっさりと受け入れられている。つくづくこちら側の器量の
狭さが身に染みる。

青森はつい最近まで(東北新幹線八戸開業まで)、観光には熱心でなかった。夏のねぶ
た祭りだけ、異様なほど(300万人とか)人が来るが、あとはどこへ行っても閑散し
ーんとしたもんである。そこで、これを読んで来たくなる人がいるかどうかは別として、
拙い青森の紹介をさせて頂きたい。

まず、あなたが行きたい所に行く途中で道に迷った時、お年寄りに道を聞いてはいけな
い。ここでは地元の若者ですらお年寄りの津軽弁が理解できないのだ。
妻が道ばたで売ってたおいしそうな大根を買う時、葉っぱがおいしそうなので「付けた
まま売って」という意志を伝えるのに5分はかかったそうだ。売っていたのはお婆さん
だったのだが。婆さんは多分葉っぱがおいしいのは良く知ってるのだが、売る時は切り
落とすもんだと思っていたらしい。油で炒めて味噌汁に入れるだけでしびれる旨さなの
に。婆さんが良く知らない都会のせいだ。

あと、ホテルや店で、尋ねもしないのに観光案内や名所案内をしてくれるのも都会だけだ。
少なくとも青森では、自分から聞かないと情報は全く手に入らない。サービス業こそ未
来の産業だなんてうそぶくのも都会なのだ。欲しい情報はきちんと整理してから丁寧に
聞いてもらいたい。親切に教えてくれる。でも地元の人はほとんど情報を持っていない。
なぜなら我々転勤族が行くようなところに彼等は行かないのだ。彼等が欲しいのはきら
びやかなショッピングモールであって、近場の秘湯よりディズニーランドの方をよく知
っている。秘湯はせいぜいタウン誌が案内する程度。だからどの秘湯も空いている。
(ただし国際興業の系列は除く)

だから、青森の魅力は年単位で滞在しないと分からない。自分で見るしか無い。転勤族
同志で情報を交換しあって出かける。
道路は悪路ばかりである。アスファルトの敷き詰め方が極めていい加減である。どうせ
冬に除雪車が削り取ってしまうので、いい加減でよいのだろうが、腰には悪い。
しかし景色は素晴らしい。一番素晴らしいのは5月である。青森の「春もみじ」が大々
的に宣伝され始めたのは最近だと思うが、これは写真では全く素晴らしさが分からない。
私も言葉で伝える術は持ち合わせていない。なんと言うか、色彩と空気の霞み具合の微
妙なバランスの中で一挙に植物が芽吹くのである。私と妻は「爆発」に近いということ
で意見が一致した。ブナが芽を吹き、その林の中でハルゼミが騒ぐと春のカーニバルは
絶頂を迎える。でも空いてますよ。

秋の紅葉はやたらと奥入瀬渓流にばかり人が集まるが、少しだけ山を登れば仙人の世界
が拡がる。冬に来れば白鳥が手から餌を食べてくれるし、樹氷の中で猛吹雪も体験でき
る。土日は銭湯代わりに近くの温泉へ足を運ぶ。350円で入れる。寿司屋は握るのが
下手でもネタが十分にカバーする。秋のとうもろこしは砂糖をかけたように甘い。春の
山菜は鮮烈な苦み・・・・

冬は本当に食い気ばかり。ではまた。


散文(批評随筆小説等) 転勤族のふるさと自慢その1 Copyright Dr.Jaco 2004-12-25 23:28:53
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