希望の芽
服部 剛

石巻の仮設住宅に住む 
Tさんに新年の電話をした 

「あけましておめでとうございます 
 今年もよろしくお願いします  」 

「いよいよ来月から 
 津波に流された場所に、もう一度 
 新しい家を建てるんですよ…  」 

「それは良かった…そうですか」 

「物資の不足でいつ完成か、わかりませんが 
 (蝸牛、のたりのたりと、富士の山)と 
 誰かがうたった感じです         」 

「被災された経験者の言葉ゆえに… 
 (希望の芽)の大事さを感じます」  

「お盆の頃に建つかもしれないので 
 ぜひ来てくださいね…     」 

「はい、楽しみに…おやすみなさい」 

Tさんは今夜も、睡眠薬を飲み 
布団に入るのだろう 

「兎と亀で、亀が最後に勝ったのは 
 目標があったからなんですよ  」 

Tさんの言葉を 
自らの不器用な道に重ねて 
まだはいはいをしない一歳の周に重ねて 
「新しい家」を夢見るTさんの心に重ねて 
――携帯電話のボタンを押して、切った時 
遠い空を渡り 
縁の糸でつながれた 
それぞれの新年が、幕を開けた 








自由詩 希望の芽 Copyright 服部 剛 2013-03-08 18:54:53
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