矢印
らいみ
矢印が呼んでいる
「こっちに来いよ」
道の真ん中で異様に光っている
「こっちに来いよ」
目を逸らそうと思っても
目に飛び込んでくる
「こっちに来いよ」
誘われる
その矢印まで行くと
その先にまた矢印が光っている
「こっちに来いよ」
どうしようか
知らんぷりをする
「こっちに来いよ」
声が聞こえているわけじゃない
なんだか強い力で引き寄せられていて
誘われる
またひとつ矢印を踏むと
またその先に矢印が見える
「こっちに来いよ」
もういやだ
でも無視できない
「こっちに来いよ」
振り切ろうとしても
足がそっちに向かう
そうやってずっと矢印をたどることになった
これはいつか昼間にどんどんあるいた道かもしれない
とすると知らない場所に行ってしまう
でも、そんなことどーだっていい
とにかく着いて行く
矢印が行き着いた場所は
矢印の集まる場所だった
四方八方から矢印が集まって来る場所
ここはどこだろう
矢印の墓場か
ひょっとして「忘却の彼方」?
まさか
忘却だったらなにも思い出せないはずだ
忘却という言葉を忘れていないのだから
ここは忘却の彼方ではない
彼方ではあるけれど 忘却じゃないものの彼方だ
いったいいくつの矢印がここに集まってきているのか
ぐるりと回り始めて 百まで数えみた
ばか!
最初のひとつに印をつけなかったから
どこまで数えていいかわかなくなったじゃないか!
おまけに
自分がどの矢印からやってきたのか
わからなくなったじゃないか!
帰れなくなる!
矢印が全部こっちに向かって
糾弾されているみたいだ
無目的に歩いてきたことを許してください
胸がきゅんと辛くなる
「まあ落ち着けよ」
と矢印がいう
「息を整えろよ」
ふうっと息を吐くと 少しだけ考えついた
方向がわかるものが何かないのか?
星だ
今は曇っていて何も見えないけれど
晴れる日も来るだろうし
だいいち、まず朝を待つ手があるじゃないか
なんともはや
どこにでもある解決法にたどりついた
けっきょくそーゆうことか
つまんない結論だよ
まったく
そんなところに行き着きたくはなかったけれど
あきらめて従うことにしよう
おやすみなさい