ある哲学者との対話 
服部 剛

食卓に置かれた長方形の皿に 
横たわる、くろい目の秋刀魚は  
いつか世を去る 
私の象徴として、この口に入る 

   * 

日常の素朴な場面を絵に描いた 
一枚の布をバケツの水に浸し 
両手でぎゅりり…と絞る 

   * 

一滴の水を―― 
いのちの水を―― 
私の渇いた魂は飲みたい 

   * 

両手を広げるきりすとの内に 
一本の木があり 
一本の木の内にきりすとがあり 
彼こそ、全てを貫くひとすじの道である 

   * 

九十九匹の群から逸れた 
一匹の迷える羊の心に 
ひかりの原石はある 

   * 

君の弱点を引っくり返してごらん 
そこに小さい緑の芽が出て 
世界に一人の君という 
花の顔は咲くだろう 

   * 

ひとりの人の内に 
宇宙は、ある 
聴こう…無数の鈴を密やかに鳴らす 
あの星々の合唱を 

   * 

私の日常の  
一挙手一投足は 
ひかりの人の像を、ほる 
彫刻である








自由詩 ある哲学者との対話  Copyright 服部 剛 2013-03-02 19:23:34
notebook Home 戻る  過去 未来