ふるえる
岡部淳太郎

ふるえるのは、風がふくからだと、夢の人はいった。
あるいはあなたのたいちょうがすぐれず、ねつのよう
なからだから、みえない思いがはっしているからであ
るのかもしれない。そのようにして、ぶるぶるとふる
えていると、すべてのものがぼやけてみえてしまうか
ら、そのためにあなたはさびしい。そして、そのさび
しいこころは、かこにあったひさんや、みらいにおこ
りうるだろうひげきを、しらずによけんしてしまう。
とりがどくさつされ、むしがちをならすようにせんめ
つされる、そんなかなしみ。そしてまた、あなたはふ
るえてしまう。ふるえるのは、風がふくからだと、夢
の人はいった。風はいやらしいうわさや、ちりのよう
にめにみえないうぃるすまでも、はこんできてしまう
から、そのためにあなたはますますふるえて、ますま
すむこうぎしのことを思ってしまう。風にのって、こ
こからわたってしまったむすうのこころが、おおくの
なきものたちのために、たえまなくほほえむ。ぶるぶ
るとふるえて、にわとりのようなうんめいを思いなが
らも、あなたはすこしずつめをほそめてゆく。ふるえ
るのは、風がふくからだと、夢の人はいった。風はど
こから、ふきつなほうがくから、それともひがしずむ
ほうこうから、ふいてくるのか。それはあなたのびん
かんなはだをなでて、あなたをむずがゆい思いにさせ
る。そして、夢のまくらをたたいてさまよいながら、
そのなかでもあなたはふるえはじめる。きのうもきょ
うも、おおくのいさかいがあった。あすもきっと、よ
くないことがおこるだろう。そのために、風はいつま
でもふるえ、夢とまだみえない時を、あなたをとおし
てつないでゆくのだ。みあげれば、たましいのような
くも。そのすきまから、ほそいひがさしこんでくる。
ふるえるのは、風がふくからだと、夢の人はいった。



(二〇一二年七月)


自由詩 ふるえる Copyright 岡部淳太郎 2013-02-17 14:29:00
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