しなれサンドバッグ
komasen333

しなるサンドバッグ
うっすらと遠のく自意識
息遣いは忙しなくクレッシェンド
煌々と 蛍光灯が燃える 小さなビルの三階

チャンピオンは出ていない
名の知れたプロも出ていない
それでも熱は
この街の片隅で闇を切り裂いていく

シュッシュッ フッ
シュッシュッ スッ
 未来でも過去でもない
 この"今"だけを抉るアッパー

シュッシュッ ブゥン
シュッシュッ グゥン
 経済でも政治でもない
 この"今"だけを抜くストレート

滴る汗
静かに受け止める靴紐
じっとりと重力を増すことで
軽快なステップを目覚めさせてゆく

連打の果てに浮かび上がる
    愛のように眩しい
    影のように狂おしい

何かが欲しいというよりも
何も欲しくなかったからこそ
自覚できた欲望のままに

誰かを守りたいというよりも
誰かを負かしたいというよりも
誰も振り向いてくれなかったからこそ
自覚できた空虚のもとで

くり出すパンチ
吸い込まれぬように
延々と続きそうなこの日常に向けて

今夜もその一撃を夢見てる
たしかなその一撃を求めてる
この街の片隅で
  小さな、小さな、小さなビルの三階で


自由詩 しなれサンドバッグ Copyright komasen333 2013-02-17 12:30:45
notebook Home 戻る  過去 未来