滑車の前で
木立 悟




滑車の前で 光を背に
腕をひろげて 動けずに
崩れ重なる門の残骸
霧を貫く鉄の橋から
したたる滴を聴きつづけていた


霊はいて
雪の地に立ち
応えを受ける
霊は霊に
応えをわたす
衣の奥の明るさが
地の影を立ち上がらせ
軽やかな口もとの導きが
雲を夜の火に触れさせる


道に降り立つ鳥の背後で
こぼれ落ちては鳴り響くもの
かつて門が立っていた地に
離れたままにあるものたちが
同じ一瞬の空を聴く
刹那の水を照らして消える
遠い遠い閃きを聴く


雲のむらさきを浴び
無い水のなかに立ち
無い影をつくるもの
上にも下にもある青に
触れたくてしかたのない微笑みの
羽を失くした霊のはじまり
添えられた手のなか
分かれていく前の
小さな 小さな
水の混沌


雲のかけらがくすぶる道で
霊は夜を語り終える
石を覆いひしめく花が
昇る月の色にひらき
夜に満ちる声を聴く


ひとりの霊が飛び去る先に
白と黒の朝は終わる
重なる鉄の群れを見あげ
滴のなかの声を知るとき
わたしは光のはりつけから放たれ
残された飛べない霊の手のひらを
応えとともに握りしめ
誰もいない地へ歩いていく
もう一度 門が見える日に
もう一度 門が語る日に





自由詩 滑車の前で Copyright 木立 悟 2003-10-27 10:06:43
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