羽衣の松から
天野茂典
羽衣の松から
沖を行くタンカーを眺めている
君も黙ってみつめている
潮風はおだやかだ
乱れ
乱れてゆく君
そんな時間もあった
あんな声を出して
いまは沖行くクタンカーを見つめている
海が洗ってくれる
ぼくらの時間を
シンプルなタンカーの造形
君は26歳だった
喧嘩をするにはじゅうぶんな年頃だ
ぼくは君の浮気を許せなかった
ぼくらは分かれることにした
最初に誘ったのはぼくだった
ぼくにも多情多恨の癖があった
電話の奥で最後に
君は叫んだ
『SEX』と
いろんな女性がいると思うが
インフォマニアの彼女にぼくは
辟易してもいたのだ
ぼくらは見ていた
羽衣の松から
おたがいに違ったかんがえを持って
沖行くタンカーのながい航跡を
ぼくらの分かれるまでの経緯のように
2004・12・20