からっぽの旅  
服部 剛

なけなしの金を 
銀行ATMから下ろして 
伊東への旅に出たら 
財布も口座も 
すっからぴんになってしまった 

安月給から食費だけは 
嫁さんにあずけているが 
幼い息子と3人で 
なんとか飯さえ食えりゃあ 
「金」なんぞというものは、案外 
まぼろしに視えてくる 

旅の最後の1日は 
財布の中の小銭等をにらみ 
帰りの電車の時刻表に目を細め 
時間と金を秤にかけるようなあんばいで 
はらはら動悸を乱しつつ 
最後の小銭で「わんかっぷ大関」を買い 
のりこんだ東海道線の夜の車窓は、熱海にて 

冬だというのに、海の上には 
どばん、ばん・・・!と 
大輪の火の花がひらいた 

あぁ今宵は何故か 
旅の酒に頬も赤らみ 
すっからぴんが、こころ酔い・・・ 








自由詩 からっぽの旅   Copyright 服部 剛 2012-12-05 00:13:04縦
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