路上の野菜売り
鵜飼千代子






「路上で突然ですが、
果物買ってくれませんか?」
「さっきまで
そこで売っていたのですが、
少し残っちゃって」



立川駅の歩道橋の下で
前を歩いていた人に袖にされた、
30代半ばの青年が
声をかけてきた



両手で抱えている箱には
梨ともうひとつ
箱が入っている



「見せて」
わたしがそう言うと
地面におろし
商いを始める


「いくら?」
「さっきまで1つ400円で
売っていましたが、
3つで1000円にします」

「わたし千葉から来たの
その大きさだと産直農家で
1つ350円くらいだね(贈答用で)
他にはないの?」
「やまと芋があります。
これは千葉の多古産で
さっきまで1つ600円で
売っていましたが、
4つ全部買ってくれたら
1000円にします
出血大サービスです
ちゃんと領収書を発行しますので
商品に不具合があったら
ご連絡ください」
と、
集金用のビニールケースから
領収書を見せた



「大田市場で仕入れたもので
路上で売っていますが
商品はちゃんとしたものです」
「やまと芋全部と梨を買ったら
いくらになる?」
「…梨3つ買ってもらって2000円で」
「やまと芋と梨6つ
全部買うから2000円」
「え、2500円で」
「2000円にしよう。
そうしたら帰れるよ」
「…ジュース代ください」
「2100円ね」



わたしは娘と
父の迎えの車を待つ
待ち合わせ場所に向かう
途中だった

青年は
道行く人に声をかけながら
駅前に向かう
途中だった



「500円玉ありませんか?」
「さっきお菓子買っちゃったから
ないの
750円だったのよ」
と、好物の
太子堂のポテトチップスが
5つ入っている紙袋を
指差す





「ジュース代」なら
100円じゃ買えないかと思い
2110円渡した



今、自動販売機で飲み物を買うと
120円?
後から、はっとしたが、
青年は何も言わず
領収書をきった



「梨は栃木産です」
「そのシールもらっていい?
出かける予定があるから
貼ってお土産にするわ」
多古産やまと芋のパンフレットと
栃木産梨「にっこり」の
チラシとシールももらった




わたしはたまに
こういう買い物をする

領収書の裏には
「クーリング・オフのお知らせ」という
細やかな記載があった






携帯写真+詩 路上の野菜売り Copyright 鵜飼千代子 2012-11-22 23:56:01
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