聖火 
服部 剛

地下鉄のホームに 
吹き抜ける風の方に 
貼られたカラー写真の新聞から 
「オリンピックメダリスト・銀座でパレード」に 
押し寄せた人波の歓声が聴こえてきた 

夜明けと共に、眠い目をこすり 
重たい腰をえいと上げ 
ビル群の影にかつかつ靴音を鳴らし 
日々の勤めに向かう 
すずしい顔した人々も 
体温を忘れた時代の中で、求めている 

今年のロンドンで 
卓球の愛ちゃんが「よっしゃ!」 
と拳を握る 

一昔前のロサンゼルスで 
柔道の山下選手に判定が出て 
諸手をあげる 

昔々のベルリンで 
ラジオのアナウンサーが 
「マエハタ、ガンバレ!」と叫び 
プールの壁に指先を突ける 

あの瞬間を 

誰もが一見、辺鄙な日常に飽きながらも 
等しいフィールドに立つ 
選手だと知った日 

こころに聖火の灯った僕は 
夜道を日々の旅路に重ね 
両脇から囁く街灯の間を 
頬に汗を垂らし、何処までも歩いた 








自由詩 聖火  Copyright 服部 剛 2012-10-15 20:14:57縦
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