矢口渡
松岡宮

 
 時は1358年10月
 戦場に向かう騎馬十騎 
 若き荒武者 新田義興
 信頼していた家臣の裏切りにあい 
 多摩川に浮かぶ船中にて 自害す
 矢口渡伝説



戦場に向かう騎馬十騎の立てる 
音が
いちばん深い闇の底を揺さぶる 
ここは
きよらな水の上 
浮かぶ落ち葉ひとつ
ちいさな船はこわれかけて
左の岸から敵(かたき)がやってくる 
そして 
右の岸からも敵(かたき)がやってくる 
ここは
風がぶつかる場所 
波が砕ける場所 
ちいさな船はしずみかけて
方角を失い 行く先も失い 
漂う

流れ流れて濁流にすべて流され
流れ流れて川底に引きずり込まれ
誰が敵(かたき)か 誰が味方か
誰が敵(かたき)か 誰が味方か
覚えておれよ
覚えておれよ
月の欠片が泥にまみれてゆく
矢口渡

鈴虫の羽とヴィオラの弓が弾く
音が
さまよう神霊たちを慰めている 
ここは
やわらな水の上 
浮かぶ落ち葉ひとつ
ちいさな灯りが目を覚ます
左の岸から御霊がやってくる 
そして 
右の岸からも御霊がやってくる 
ここは
風がぶつかる場所 
波が砕ける場所 
ちいさな灯りはよみがえり 
泥だらけの指が さまよう旅人を 
いざなう

流れ流れて濁流にすべて流され
流れ流れて川底に引きずり込まれ
お前とともに お前とともに
お前もともに お前もともに
覚えていたよ
覚えていたよ
月の破片が水を切り裂いて
矢口渡

http://youtu.be/p_8iz3hyCRs


自由詩 矢口渡 Copyright 松岡宮 2012-09-29 22:21:28
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