拝啓 お父さん お母さん 様、長女めぐみより
めぐみ

−前略−
おぎゃーおぎゃーおぎゃー
・・・嗚呼、生まれた。第一児女の子だ。
出生届けを出せばお金がもらえる。
名前を決めて出生届けを出せば、今日をしのぐことができる。
今日を生き延びれる。
そうか、「恵みの子」だ。
この子は「めぐみ」だ・・・。

−拝啓 お父さん お母さん 様−
めぐみです。もう二十歳になったよ。
ここで湿っぽく今まで振り返ってもいいかな?

さかのぼること約9年前、1995年1月17日、阪神大震災。
朝起きたら景色も生活も一転してどん底にまっさかさまだ。
慣れ親しんだ大阪から離れること余儀なくされ、夜逃げさながらに出てきた愛す街。

友達も家も捨てた。
プライドも見栄も捨てた。
全てを捨てたんだ。

住む家も行く学校もなく約1ヶ月間
一家五人と犬一匹、うさぎ一匹、車一台で放浪したね。
うさぎのピーターは途中で人の庭に逃がしたっけ。
犬のボスは最初の家で知り合いに譲ったね。
今でも忘れない愛くるしい家族。

私達は明日生きてるのかさえも分からなかった。
私達は目が覚めて自分がまだ生きていたら、助かったと思った。

頼るあてもなく、全てが1からのスタート。
学校が変わる度に大体いじめられ、なじられ、みんな必死に生きてきたね。
家が変わり過ぎて、自分の帰る家が分からなくなることもよくあったよ。
定着しない生活で、お母さんとお父さんを何度憎んだか分からないよ。

死にたい。
死にたい。って。

友達が、地元の子達とつるむのが羨ましくて、いつも指をくわえて帰って泣いた。
そんな時は桑田さんの歌で自分のドライな気持ちと重ね合わせて
より一層泣きじゃくったひとり。

誰もわかっちゃくれない。
帰る家なんてない。

お父さんとお母さんはそんな子供の心情に耳を傾ける暇もないくらい
身を粉にして働いた。
お母さんは私達が家事をしないとどなりつけたね。
お父さんは私達が眠るまで仁王立ちで見張ってたね。
憎かったよ、憎くて憎くてもう家なんて帰りたくないと何度も思って。

全ては愛情だった。
全ては愛にまみれた教育だった。

だけど 紆余曲折を経て今
お父さんがお父さんで
お母さんがお母さんで
あゆみがあゆみで
仁が仁で
みんながみんなで
そして私が私で
本当に良かったと心から思うんだよ。

私は望んで此処に生まれた。
私はこの地球ほしのこの家族と一緒に
  全ての難を乗り越え 生きていくために生まれた。

もう、我儘は言わないよ。
家の仕事だってがむしゃらに働くよ。
この身がぼろぼろになったって心は満たされているんだ。

お父さん、お母さん、めぐみは二十歳になりました。
お父さん、お母さん、人に「めぐみ」を与えてあげられる人に
なっていくね。

今以上愛させて。
今以上頑張らせて。
今以上 毎日 毎日 抱きしめるよ。
今以上 ありがとうと言わせて。
めぐみは二十歳になったよ?
ねぇ、1番に喜んでくれるよね。

  長女 めぐみより




未詩・独白 拝啓 お父さん お母さん 様、長女めぐみより Copyright めぐみ 2004-12-14 12:12:35
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