種を蒔く人
岡部淳太郎

まだこれからも
咲いてゆくのだと思って
種を蒔く人がいる
空がこときれたように
雨がとつぜんやみ
後には思い出のように風が流れていた
大地もしっかりと
流れていて 古い
しきたりの中で
売ったり買ったりされ
そのために種も
さまよってしまう
思い出のために捧げられるものであったとしても
花は咲かなければならぬ
その匂いのために 虫は
わずらわしくならなければならぬ
だが流れる大地の底には
いくつもの芽吹くことのない種があり
人は時おり
そのことを思い起こす
そのままで眠りについてしまったものたちは
石のかたわらでそれまでの
すべてのあやまちを思い
それらのひとつずつを赦していった
空はいまや雨の痕跡も見せずに
広く晴れわたる
いつまでもつづくかに見えるその陽光の下
まだこれからも
咲いてゆくのだと思って
種を蒔く人がいる
時の上に 萌え出るものと
萌え出ないものとがあり
そのはざまで
流れる大地に足を取られそうになりながらも
その人は種を蒔きつづける
ひとつずつ 丹念に数えながら蒔く
その人こそが
すでに種である
すべての人と
その思いが
種であるのと同じく



(二〇一二年七月)


自由詩 種を蒔く人 Copyright 岡部淳太郎 2012-08-16 02:24:29
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