道を掃く人
岡部淳太郎

もうこれからは
咲かなくてもいいと思って
道を掃く人がいる
枯葉やら 紙吹雪
あるいは花びらと 花そのもの
それらで埋まった道を
木の箒で掃いていると
うっすらとにじんでゆくような
心持ちになってくる
いくつもの国や山河や
あるいは妖艶な夜の星ぼし
それらが興っては滅んでいった
それらの散乱した花のむくろで
埋めつくされた道を掃く
その人の手も いまや
ひとひらの紙切れや乾いた枯葉のように
うすく頼りない
草だとか藁だとか
あるいは花びら 花そのもの
それらの 吹けば飛ぶようなものたちを掃いて
道の端に寄せてゆく
いくつもの力や栄華や
あるいは面妖な陽の輝き
それらもいまはもうない
風が掃きあつめたものを乱しては
通り過ぎて行っても
その人はまた同じように
掃きあつめてゆく
もはやいまがどの季節かも
わからなくなっているから
もうこれからは
咲かなくてもいいと思う
道を掃く人の頭上
とても高いところで
風が何度も吹き荒れるが
それに乱されることはない
雨とか 雪とか
あるいは雹や霰 雷などの頼りないもの
それらを信じる弱さのために
それでも咲こうとするはかなさのために
その人は道を掃きつづける



(二〇一二年七月)


自由詩 道を掃く人 Copyright 岡部淳太郎 2012-08-16 02:22:37
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