盆の即興演奏
風呂奴

盆の即興演奏
磨き抜かれた墓石のように
重厚に広がる天の平野

夜空は シャンペン色の発疹を患っていた
星の高熱も 青年の村落へ墜ちるころには
地上はすでに 輝きを唄っている

いたるところで。

夏の夜半
鈴虫の輪唱が
風をかすめとる
南の空に閃光が走り
音のない花火が夜空を揺らす
昼間 日光をたいらげた
ふくよかな樹木の悠然は
収穫前の巨大なナスのように
暗闇を蓄え 持ち場を離れず
どっしりと構えている

ライオンたちは
サバンナの陽気ごと
図鑑の中で死んでいた
空き缶とライター
ギターとテッシュ箱
汗ばんだシーツと雑多なメモ
部屋中に散乱する怠惰の跡は
脱ぎ捨てられたサンダルのように
乱雑に転がっていた

夕食前には
先祖を拝む
亡霊には顔がなく
座敷はすでに
死人のような口ぶりだった
蛍光灯だけが
無機質な音をくり返し、
僕がいつか
この座敷のように
沈黙を語る日、
一体誰が、この部屋の灯りを
消してゆくのか

僕には、祖母の顔しか思い出せない

今頃
都会のハイウェイでは
ふるさとの数だけ
渋滞の距離がのびているらしい
線香をあげる単純な静けさに
亡霊でさえ帰省する盆を
疑いたくもなった
一筋の霊感もない
ありふれた個人が
昇らない言霊の飛翔を願い
なんとなく合掌している

いたるところで。

死と詩の狭間で
蛍光灯を消せば
神棚に置かれた
西瓜のような静寂につつまれて、
盆は止んだ。


自由詩 盆の即興演奏 Copyright 風呂奴 2012-08-14 22:02:11
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