金魚風船
松岡宮

都心の電車で急病人が出ない日はない
それは 
ふわふわと浮かび どこかで必ず破裂する 
金魚風船のようなもの

蒸し暑い夏の夕暮れに破裂するパアン
駅員がふたり あわてて走って行った
それから若い駅員が車いすを抱えて往復していった
「急病人の介護のため しばらく停車します」と 
車掌のアナウンス

都心には決まった数の風船が浮かび
いま 誰かの上で その風船がパアン
それは
朝の電車で胃痛を押さえていたわたしだったかもしれない
朝の電車で頭痛をこらえていたあなただったかもしれない
ラッシュの優先席前で ふと網棚を見ると
ふあん
おや しおれかかった金魚風船が浮かんでいる
それが ゆっくりと泳ぎはじめ
静かにわたしの頬の産毛をかすめた
 <あなたほんとうはすきなんでしょう>
そんなふうに 呟いた
心拍数が増大する
パアン
次はわたしかもしれない
いよいよ破裂するのかもしれない
駅員の膝の上での嘔吐
駅員の太腿の上での嘔吐
黒い制服を汚すってどんなこころもちでしょうね
どうかこれ以上具合悪くなりませんように
願いながらわたしは目を閉じた
風船の尾びれの水の輪を
少しだけ
よけながら


自由詩 金魚風船 Copyright 松岡宮 2012-07-27 00:02:57
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