朝の珈琲 
服部 剛

いつになくぱっちり目覚め 
むくりと起きた僕は 
妻にお風呂セットの袋を渡され 
車のキーを廻し、アクセルを踏む。 

青信号の交差点で、すれ違う護送車。 
(青年達の母親は、今頃どうしているだろう?) 

何年も前に、スクーターで転んだ 
おじさんが顔を歪めていた、曲がり角。 
(あれから怪我は、治ったろうか?) 

赤信号になり、ブレーキを踏む。 
前の車は「福島ナンバー」のスポーツカー。 
(彼の両親は地震の時、無事だったろうか?) 

そんな朝の気紛れなドライブの 
フロントガラス越しに 
語りかけてくるいくつもの情景達に 
思いを馳せて 

人もまばらな朝のカフェで珈琲を啜りつつ 
息子が生まれた一年前、医師に診せられた 
「一本多い染色体」の写真と 
大粒な、妻の涙が甦る 

昨日の夕餉の食卓で、僕等三人は 
幸せそうに笑う「一枚の絵」になっていた 

(願わくば、人の心の哀しみに 
 あらたなる日が射しますように――) 

珈琲を啜り終えた僕は 
お風呂セットの袋を手に、腰を上げ 
カフェの外の駐車場へ歩いた 








自由詩 朝の珈琲  Copyright 服部 剛 2012-07-20 20:03:35縦
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