地平
茶殻

世界がそんなことでは終わってたまるかと僕は思うのだが
世界が終わるような顔をして学生服の少女は途方に暮れる
生まれてこなければよかったと痩せた影が独り言つ
子宮のない私はただへその辺りが痒くなるばかり

乾いた唇から舌を出して
ほかの動物たちに唇はあるのだろうかとか思った
余計なことを口走る悪癖を忌みながらそれでも唇は縫うには厚ぼったく
意思によって閉口を貫けない私は舌を挟むことで喋ることを拒む

「純文学」という言葉の上にもうひとつ「純」を足したくなるような
くどくしつこくあぶらっこい胃にもたれる文章を欲していた
裏を返せば
私の望む通りのもの、想定以上でないもの、として
そいつは限られた間口と限られた奥行きにすぎないわけだが
それはつまり僕のスタンダードに過ぎる性癖に似ている
かつての恋人の可愛げのない性器にだって似ている

君はボタンを掛け違えたことを憂うより
ブラウスを手に取ったことを嘆くべきだ
セーターを編んでやることは出来るかもしれない
美しい裸こそ催すことが難しい

週末、
ある女は自らの肌を蜘蛛の巣に曝し
ある男はそれを半裸になり覗き込む
唯物のあらわれか手持ち無沙汰にあちらこちらを指の腹で探り
膿を探し当ててはプチ、プチと白濁を放つ
首のない写真とともに暮らしていくことに
名前のない女とともに暮らしていくことに
金のかからない愛の好都合と不都合の天秤に
宗教的大衆に祀られた無菌室のような天国に
そのなけなしの余白を今に失いそうな小舟に
イミテーションを飾る空白などありはしないと思うわけだ

ラジオでニュースを読む男の平坦な声の
唇のひとつひとつの動きが
チャップリンのように速度を変えながら
シームレスの10秒を重ねていく

柔らかなてのひらを持ち
カスタネットのようなえくぼを包み
背中合わせの愛と憎を結わえることで
舟は私とあなたの同乗を許すだろう

そんなことで何が変わるとは僕は思わないが
白線の国境をノックしまたいでみる
長電話だってするさ
影と話し込んで出す解はしのびない
咎められない裏切りは虚しさにすぎない
そんなことで世界は終わってくれやしない
のさ


自由詩 地平 Copyright 茶殻 2012-07-02 01:25:33
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