雨と原
斗宿

 濡れた雨が体に浸み込んでくる。浴びるように天の恵みに身を晒していると、やがて重みを増した黒髪がしとり、と肩を滑り落ちた。濃い土の匂いが全身を突き上げ、雲を叩く雨音の余韻を響かせていく。うねる草原に慈悲はなく、遥かな灯台がほーんほーむと別れの歌を送って寄こした。
 星が瞬く。季節は冬へ移ろうとしていた。青い風は萎え、蟲たちの合唱も遠ざかる。わけてもわけても草はら。溺れるように、白い足は浪の間を渡る。ついと裂かれた紅い傷を、雪越しの蛹が見ていた。
 燻し銀いろにひらめくうろこの魚。ざやざやと。指と肢をすり抜ける。空は低く光をさえぎり、暗い明日へといざなった。君は何を見ている。星を読んでいる。未来がないと知りながらなおも占うのか。君は笑った。
 ぬめる鏡のような水面を乱していた最後の髪の一房がとぷりと沈むと、海は穏やかを取り戻す。やがて現われた太陽も、君を探しはしなかった。ただ唄だけが残る。妖しく。君は容のない生きものになって、僕の上に降り注ぐだろう。その冷ややかな手でからめとり、影へと誘うのだ。緑なす髪と瞳。僕は虜になり、想い出に浸る。やがて地上の幸せを、残らず忘れ去ってしまうまで。


未詩・独白 雨と原 Copyright 斗宿 2004-12-09 21:52:41
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