それは雨の。
永乃ゆち



それは冬のひどく雨の降る日の夕方




雲に隠されて夕日なんて見えなかった



私は独り車内に残されて



しわくちゃの一万円札を持たされていた



夜になると雨は一層ひどくなって



私は自分の置かれた立場を理解した




母は私を置き去りにして行ったのだ



店の明かりも消え照明も落とされた頃



私は寒さに震えていたが不思議と寂しさは感じなかった




ことあるごとに私に暴力を振るった母親から




逃げ出せたと思った




その安堵感と自由になれた嬉しさに




先の事も考えず喜んでいたのだ





夜は更ける












翌朝






深夜に雨は雪になり気温はマイナスになっていたらしい



私は凍死体として発見された



それでも良かった




やっと私は自由になれた




もう痛みも寒さも感じない




その代わりか私はそこから動けなくなったのだが




雨が激しく車の窓ガラスを叩く音だけが





今も聞こえてくるようだ


携帯写真+詩 それは雨の。 Copyright 永乃ゆち 2012-06-15 23:46:02
notebook Home 戻る