二十五歳のお盆
komasen333

予定通りに終わった記憶がない夏休み
小学三年の夏休みの
スケジュール表が物語っている

「キタナイ字!」と
左隣からすっと覗き込んだつぶらな姪っ子 
「わたしはもう宿題おわったよ」と
誇らしげに言い逃げ

久しぶりの帰省
出来たてのショッピングセンターちらほら
懐かしい匂いの実家
荒々しさが全くと言っていいほど
なくなった隣家の暴犬
相変わらずの両親
それなりに幸せそうな姉夫婦
天国を
先取りしたようなターコイズブルーの空

切なさだけで 
懐かしさだけで 
どこまでも行こうと思えば
行けないことはないのだろう 
マンネリを誤魔化しながらなら

ちょっとの
ひたむきさと優しさがあれば
大きなトラブルがあっても
生きていけるのだろう 
災害と病気をのぞけば

経験が増えて 
風景が変わって
価値観も少しずつしなってゆく
 
両親、姉夫婦、同級生の近況を
聞いていくうちに
また
新たな発見が生まれたり
疑問が渦巻いたり

「ボクはボクを見つけたい。
どんな風になるとしても
理想的なボクになりたい」

的外れな
哲学もどきな
暑苦しい字で書き殴った卒業文集の裏表紙
二度と取り戻せないあの頃
急速に 
甘酸っぱい 
ポジティブなフラッシュバック

そうこうしているうちに
ケータイのアラームが鳴り響いて
慌てて
ボストンバッグに
文集や思い出のノートをつめて部屋を出る

「またな」と
つぶらな姪っ子の頭をポンポンと叩いて
「お正月には帰ってきなさいよ」と
儀礼めいた母の言葉を背に受けながら
新幹線出発の
二十分前到着をイメージして駅へと歩く

真夏の陽射しに促されるように
揺れる陽炎が
帰るべき
明後日のオフィスの
デスクをふと過ぎらせる

ちょっと鬱陶しい
だけど嬉しい
お土産として渡された清涼飲料水
ゴクッと飲んで
歩くペースを上げた 八月末


自由詩 二十五歳のお盆 Copyright komasen333 2012-06-15 23:27:26
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