ネオテニー
榊 慧

「初恋は?」
俺はこの問いに答えられない。

13〜14歳のときに自分が小2から小4くらいのあいだ、成人男性にレイプされていたことを思い出した。まわりが暗くて白く見えるような雷がからだに入ってきたみたいだった。今でも完全には思い出せていないと思っている。
小学生のころから俺は自分のことを気持ち悪いと思っていた。家は家で今思ってもおかしかったし、息の仕方がわからなかった。それくらい生きる方法がわからなかった。先生、国語のメロスのお話、おかしくないですか?メロス、都合良すぎないですか?わからなかった。先生、ゴッホはそんな人じゃありません。ゴッホはものすごくインテリジェントです。無視された。
小学生の5年からはいじめやいやがらせを受けるようになった。俺自身変わっていたろうが、家の教育や圧力のことがなければもう少し楽だったと思う。だから当然恋なんてできなかった。罰ゲームで告白されたりは何度もした。これは中2まで続く。
マリー・ローランサンの伝記を小6のとき読んだ。憧れた。素敵すぎた。共感もした。ギョーム・アポリネームの詩はロマンチックだなあって思った。
ココ・シャネルにも共感して憧れた。ダイアナ妃にも憧れた。しかし自分はとても汚く醜かった。汚く醜いから仕方ないと思った。
勝海舟がとても格好よかった。福沢諭吉のようになろうと思った。100年以上も前にSWAT組織のようなものをすでに作っていた土方歳三に興味を持った。歴史ブームがまだ来ていないときだったため、喋る人はいなかった。坂本龍馬暗殺の資料集めにもはまった。


中学校。家にも学校にも居場所はなかった。図書館に行って本を借りた。音楽、宇宙、精神論、哲学とおぼしきもの、政治学とおぼしきもの、美術、文学。ガーデニングの本も好きだった。中学に入ると同時に刺青、特に和彫り・ジャパニーズ スタイルと呼ばれるものに惹かれた。今でもタトゥーとか入れ墨は好きである。
学校に行くのが嫌で、でも行かないと怒られるから森の中で一日中レッドホットチリペッパーズのアルバムを繰り返し聴いていた。相変わらず自分は醜く、誰にも好かれないとわかっていた。
 詩を書き出した。
 とくに何が変わったわけでもなかった。


散文(批評随筆小説等) ネオテニー Copyright 榊 慧 2012-06-14 10:22:14
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