ワインとビール
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ワインとビール

こんなところにまでやって来て 一体お前は毎日何やってるんだと言う あれもこれもしなけりゃならない あそこもそこもここも行かなきゃならないのにと言う そんなこと分かっているけどうっかり忘れていたと言う だから、なんでそういう大切な事を忘れて、くだらないレストランに入って ワインを空けて それも へらへら笑って何を考えているんだと怒鳴る 何も考えていないわと答える お前は少し頭のネジが抜けているんじゃないかと言う 私はそんなにアタマがよくないと言う 何でそんなことが解かるんだ、それほどお前は頭がいいのか 馬鹿野郎となんくせつける だから そんなことも分からないからアタマが悪いんだし 私は フランス人と言ってもフランス人じゃないんだしと言う お前は本当に“ガイキチ”だね 今の話とフランス人とどんな関係があるんだよと蔑む 関係はないけど関係があると言う お前の話は意味が解からない お前には“言葉がないよ”と言う だから 親だってフランス語なんて話せなかったんだし 話せないんだから私が代りにもらいに行かなきゃならなくて 生活が大変で 国語の作文の綴りが間違いだらけで 市役所にお金を貰いにいくためのフランス人だったんだから 高卒がやっとだと思ったと言う 俺が話しているのは、そんな国籍の話をしているんじゃない、だいたい、子供の時と今は全く違うだろう お前は何を話しているんだと言う だから 私は何を話しているのか自分ではよく分からないっていう話しをしていると言う だから お前は馬鹿だね そもそも全部お前の稼いだ金なんだぞと馬鹿にする だいたい あの担当の態度は何だ シビルサービスだろう お前は腹が立たないのかと言う。だから そんなふうに見られて私はバカなんだし 私にはそんなことはどうでもいいし それより私はあなたと楽しく一緒に過ごしたかっただけなのに どうしてそれが悪いことで どうしてそんなに怒るのか 私は全然分からない ご免なさいと言う 全然解からないと言っておきながら 何が “ご免なさい”だ 人を馬鹿にするのもいいかげんにしろとよと 自分で自分の頭を殴る すると泣く この野郎と殴る すると、泣いてご免なさいと言う この野郎 “ふざけるな“と ぼこぼこ頭をぶんなぐる。そんなことしたら、頭がぶよぶよになって死んじゃうわと ハンカチに口をあてて泣き叫ぶ 俺の頭がどうなろうと なんでお前に関係あるんだ 第一レストランでふざけたボーイの態度とか 第二に吐き気がする下品なワインとか 第三に書類の件も あれも これも だいたい もう日がないじゃないかと あれも これも大切なのに いったいどうするんだと 一つ一つ数え上げながら力を込めて殴る あれもこれもやるのは大切だけれども あれもこれも あれやこれやの理由があって あっちやこっちに行っても ああのこうの言うから 私はそう思ったけど行ってみるとこうでああで”ぴーぴーぴー“と言う だから、一体つまりどうするんだと言うと だから 分からないと言う でも ”大丈夫“だからと言う 何が”大丈夫“だ だから 観光客相手の軽薄な店で酒なんか飲んでる暇があったら考えろと言っているんだと言う だから 考えてもバカだから分からないから 私はあなたと楽しく一緒に過ごしたかったと言う バカなビュロクラシ−とバカなオフィサーのために そんな時間も無くなってしまうじゃないのと言う 俺は お前といっしょに過ごしたくなんかはない 楽しくない 全くないと言う 見て分からないのかと殴る でも 私は楽しいと言う 大切なのは今で それが一番大切で 死んでしまったらほんとうに何もないのだという あとには”なにも“”なにも“ない 私はわかっている だからそれだけでいいという それだけでいいから、もう止めてと言う 何にも解っちゃいない 俺はお前じゃないと言う 全然違うと言う 俺は俺なんか全然大切じゃないし もっと大切なものがあると言って殴ろうとする もう止めてと泣いて 私はそれでもそれが一番大切なんだと言う あんなレストランのどこが大切なものか こういうことをいい加減にしたら 困るのは誰だ 明日は朝一番にオフィスへ行け なんであんな”反吐“が出るような酒を俺に飲ませるんだ どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ 俺は”お前を殺したいよ“と言う でも あれとこれをしたから”だいたい“平気なはずだと言う あんなまずいワインで平気なはずがあるかと言う ちゃんと説明しなくて悪かったと言う 説明するかしないかが問題なんじゃない 明日オフィスへ行くか行かないかが問題なんだと言う チェックは入れておくべきだと言う 例え一つでも一秒でも一寸でもやるのが当然だろうと言う でも もう時間がなくなってしたいことは何にもしなかったからと言う あんなまずいワインより痛いほうがよっぽどましだと言う でも とても痛かったでしょうと言う 死ぬほどまずかったから痛くなんかない そんなことどうでもいいから 住所を調べておけと言う もう調べてあると言う 俺はお前なんかと酒は飲みたくないからねと言う 分かったと言う 痛かったかと聞く うるさいと言う お前みたいな奴は勝手にやっていればいいと言う じゃあ ホテルの前のバーでビールを飲んでもいいのときく そういう話じゃないが まずいワインじゃないなら飲んでもいいさと言う ほんとうにおいしくないワインだったから と言う ふざけた店しかなくて ふざけた担当者で気の毒だったね ひどい奴らだったね かわいそうだったねと言う あなたのせいじゃないわと言う 私はあなたと楽しく一緒に過ごしたかっただけだと手を握る それとこれとはまったく別だ もっと大切なものがあるだろうと怒るから そんなものないとは言えずにバーに入る。





自由詩 ワインとビール Copyright m.qyi 2012-06-09 20:07:31
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