旅の始まり 
服部 剛

恩師のY先生は 
僕が被災地の石巻へ旅に出る時 
ポルトガル料理とポートワインに酔い 
ほてった頬で突っ立つ僕を 
店の出口まで見送り

その日の遠藤文学講座で
僕の詩集が何冊か売れたお金を 
旅費として、手渡してくれた。   

そのお金は単なる紙切れではなく 
今は天からこの世を眺める 
Y先生の恩師の遠藤周作が 
Y先生の体を通して 
手渡してくれたパスポート  

「仮設住宅の皆さんの前で、ユーモアを忘れずに」 

恩師のメッセージを胸に納めて僕は 
東京駅で中央線を下りて 
笑いと涙のまざった赤い目のまま 
夜の仙台へ発車する、新幹線に乗りこんだ―― 








自由詩 旅の始まり  Copyright 服部 剛 2012-06-07 23:59:29縦
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