寝ぼけ瞼に張りついた詩
風呂奴

昨夜は、本を抱えたまま眠る人だった

活字は描いた
夢の中へ浸水するやいなや
なめらかな黒髪の毛先を
屈強な体躯の背中を
雨露でできた葉むらの中の
縦笛のようなフクロウの響き
カミナリの声量から
顔のない恋人たちの台詞を

夢の脚本を編纂するものが
いつまでたっても現れない
数珠つなぎのミュージアム
車窓の向こうを入り乱れる
街並と山並の具合で
出逢うすべての景色たちは
ひとりでしか見られない

脚本がない夢の舞台で
即興でライムする吟遊詩人のように
ちがう星空を聴かせてくれる
そんな「わたし」たちの
世界中のレム睡眠が
夜と昼間の天井に見下ろされながら
寝言を垂らす
よだれのように



夢から還ると
本のページはすべて透明になっていた

昨日の私は、本を抱えたまま
眠る人だった


自由詩 寝ぼけ瞼に張りついた詩 Copyright 風呂奴 2012-06-06 15:03:49
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