空のひだまり
あおば

                   120428




ムンクの本当の叫びを60億円で落札した
個人蔵だったから始めて見る人も多く
予想外にオークションは落ち着いていて
競合者も少なく
すんなりと落札できた
人々は本当は楽しいおもいでに耽りたいのだと
僕は思う
あの歌手も今は活動中止してニューヨークに行っている
マンションの窓の灯も消えていて
ときどき管理のために見回るけれど
ここでは意味もなく叫ぶ人もなく
やたらにドアを開けようとするものもいないから
毎日が気楽なものです
大都会の日だまりのような一角に
にょきりと突っ立っているが
本当は気の良い巨人のように実直で素直なのです
管理会社の役員はそれを知っていて
人生に疲れたお金持ちを捜し出し
高層階に送り込む
そこでは鳥になったように明るく自由に過ごせます
ガラス越しに見える空は暖かく明るく雨を遮り
風を防ぎ酷暑の夏も厳寒の冬も変わることなく
生まれたばかりの赤ん坊も
末期を悟ったお年寄りも
健やかに笑って過ごせます

無理に顔を顰めて叫ぶことは止めましょう
顔つきが貧相になるし声も潰れます
それに60億円で売れるのはあなたではなく
2次元に描かれた昔の絵画です
名画かどうか判りませんが
この一角を占有するオーナーのたっての願いで落札しました







「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、なるみさん。



自由詩 空のひだまり Copyright あおば 2012-06-05 20:00:52
notebook Home 戻る  過去 未来