急行急病人線
松岡宮

 ・・・お客さま、お下がりください。
急病人をたくさん載せた急行急病人線が
終着駅の急病人駅へ滑り込む
 ・・・・お客さま、ご乗車おつかれさまでございます。
ホームの隅っこに葡萄がつぶれて駅員の革靴のかかとを汚す、駅を汚す、さわやかな朝です、お客さま。
乗客は大切なカギを握りしめながら、胸に輝くのは駅員の星だ、みえるかい、朝の空に輝く星座は駅員の星だ、みえるかい、みるんだ、胸に刻まれる、その、星座を。
電車の中で倒れたらやっと社会人3級合格だと扉の上の広告が叫ぶ
膣に入れられた中指のみる夢は規則正しい電車のリズム
お客さまを受け止める駅員の胸、電車が到着する準備をしている駅員の胸、その翼を大きく広げて、くずおれる、わたし、大切なカギを明け渡す指は喜びにふるえる
きょうもわたしはがんばりました。
ああ、駅員、みてくれ
ただひたむきに守りに守った黄金の嘔吐の吐瀉物をみてくれ
耐えに耐えて獲得した過敏性腸症候群の勲章をみてくれ
青白き努力の貧血症状のグリーティングカードをみてくれ
心筋梗塞の予兆の音叉や
動悸と息切れのストップモーション
失禁とは巻末から読む物語で
くも膜といえば下出血という字が自動的にくっつく
ここはさわやかな朝の急行急病人線
おまえがんばったよと
わたしがんばったよと
誇りを、誇りを、持ってきました、
 ・・・まいどご乗車ありがとうございます。
そんな誇りは綺麗な制服の駅員がちりとりと箒で流していった
急病人でいっぱいの電車を右から左へ流す駅員の中指が朝陽をきらり反射して輝く、この、胸で。
 ・・・お客さま、ご乗車おつかれさまでございます。
 ・・・ここは終着駅、急病人駅です。


自由詩 急行急病人線 Copyright 松岡宮 2012-05-14 23:48:14
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