しそう
茶殻

こんなことをいうのはしのびないけれど私の頭の中にもう私の墓は建っている
仏具は風化し供物は腐蝕し冬の日の乾いた光の受け皿になり憮然と佇む姿を
想像せずにいられない
かつては海に散骨してもらうことばかり考えていた 魚になりたいと思っていたし
魚でないならばせめて海の底に根を張って生きてみたいと思っていたから
それは変わらない その頃と同じ強さではないが今も少なからずそう思っている
思うだけにとどめている
単純な話だ
誰が僕の骨を拾い ばら撒いてくれるのか 埼玉から太平洋まで流れ着くには
先が長い
何の変哲もない石を腰にぶら下げている私はどこかで沈んでしまいかねない
まして沖まで船を出してくれる慈悲深き物好きがいるかどうか
感情が焦げた骨にこびりついていることを考えるより
抜け殻を飛び出して凪いだ海に飛び込んでいく私の影を考えて生きていること
それで私の海洋葬への切望は満たされている
無縁仏の言葉に耳を貸すのは
なにか打算があってのことなのでしょう
荒野は誰の庭か
この国に荒野はもうないのか
海に散骨して欲しいと願うに至る別の理由に
今思い当たる
頑なに閉口を追い求める墓の中に
海兵とカモメを閉じ込めたスノードーム
ひびが割れて
真夜中の水族館から逃げ出す
衝動に羽が生えたところで飛び回った末にいずれ帰ってくる それは自由と呼べたものではなく
私のせいかつは諸々の普遍的事実に彩られ
柔らかな花弁の変色に
ささやかな自由を夢見る


自由詩 しそう Copyright 茶殻 2012-05-13 01:05:20
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