失踪者/プラント/無蓋貨車
高濱
靴工場の生産ラインに言い争う、彼らは神々の纏い布を靡かせて、誰が最も美しい曲面を描くか鷦鷯達に聞いてみようと提案する。
工業化戦争に敗北した綿花農場の黒人労働者たちは兵士になるより他はなく、スラム街には求人広告が張り出され、ごく一部のジプシーはその街を出てゆく。
紡績工場に浮遊する石臼の周囲には空の鳥が舞い戻り、天球儀の環に静止した人工衛星の、円筒のミルク色の肉体を、脊柱を掘り出す。
腐肉を処理するプラントが、換気扇を回して病苦の喘ぎを嘲笑する実験場が、彼の応接室とは切り離されている。
劇場の椅子に凭れる様に倒れたアンドロメダが海流の蛇に覆われると、暗幕の夜の影が波打ち、その襞に隠される。
精神分裂的傾向を呈す病人の寝台には誰も近寄らず、烙印を捺された羊が喉を割かれると血を流す眸から月が落ちてゆく。
予め実存を剥奪された白痴として、腕を伸ばすと乾燥花入りのボウルに歪んだ鏡像が微笑み、釣り上がった口角が喋り出す。
天然の眼球が水平線の上に視線を合わせると、そこには自動車に乗った男の上半身が窓より外へ乗り出しているのが見えるだろう。
両腕を差し出す夜盲症の婦人が導きに従い辿り着いたのは精神病院の廊下だった。
短歌
失踪者/プラント/無蓋貨車
Copyright
高濱
2012-04-27 01:20:02