棚屋敷家の人々
高濱




彼らの顔を覆うと、それはマヌカンの化粧を流した河、セルロイドの睫毛を施した河だ。蝶の刺繍されている三本の腕は天空へと差し伸ばされ。

プラスチックとして誕生月を迎える飛蝗の後脚に、鶏卵が生えて室内の調度を掻き乱すと、女中がやってきてピンセットで摘み出す。



守護聖霊の彫像が倒れると、偶像破壊者の群が四辺形に空を飛び、白鳥が釘付けにされる地平に、紫色の天使が燃上がり崩れてゆく。

不作の土地の果物たちが、箱詰めになり悲鳴を上げる。表情筋は河に落ち、姿なき姿の幽霊の佇立がつづく。

溺れた淡水を陸に逃がす。正方形の湖がありふれた姿になると、水棲植物の池は神秘の兆す所であり、その胴体は牡山羊である。

制服の釦をきっちり閉めた車掌が、切符を確かめにやってくるが、乗客は一人も居らず空席には、夜の星で出来たスカーフが置き去られている。




短歌 棚屋敷家の人々 Copyright 高濱 2012-04-23 02:08:24
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