てんらく
茶殻

裏切るよりは裏切られたい、ということになっているので、
証明写真の下でサムズアップしながら地獄に落ちようと思う
とはいえいけ好かない野郎に唾をふっかけるくらいのことは
正確な裁きの元では罪と罰のバランスも悪くないだろうし
死ぬまでは生きてかなくちゃいけないと思って過ごせるように
順を追って私の腐りかけの部分を剪定して新しい腕を生やそうと思う


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茹で卵はテーブルから落下する
鈍い音を立てて炸裂するその卵としてのフォルムから
ただぼとりと落ちるだけのつまらない一倍速を眺める
ジェットコースターに臆病なガールフレンドと
ジェットコースターに無関心だった私と
ただ雲を見にテーマパークまで足を運んだだけだと気付いた
その日
帰りの空は淀んでいた
僕はどれいか
どれいなのかい
茹で卵に入った蜘蛛の巣のような亀裂の
奥に埋まる
命に似たもの


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真っ暗な空港で
抱き合う天使と悪魔の
ワルツ
火葬場から新しい煙が立ち昇る
滑走路は際限なく継ぎ足されて
甘い祈りが舞い上がる
ろくなことにはならないだろうけれど
僕は昨日を生きたかった
カクカクとペダルを後ろ向きに回して陸橋を下る学習塾の帰路
神にすら思い通りにならないことも
あるんじゃないかと思った
財布に残っていたレシートの裏に
赤いサインペンで『大吉』と書いて
破いてみる
天使に右腕を
悪魔に左腕を
産まれる前に譲った気がする
因果によって生えた新しい腕で
甥とキャッチボールをした
洋酒を覚えた
六弦を覚えた
ロレックスを覚えた
愛する有象無象をつねってはじいて撫で回して
全部そいつらのせいにすることを覚えた


自由詩 てんらく Copyright 茶殻 2012-04-14 01:20:17
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