キャスケット病
あおば

古ぼけた桐箪笥の奥に潜んでいたウール地のハンチングを被っていて厳しく叱られた
銀ねず色に自転車で風を切り格好好いと友達にも煽てられ
些か得意になっていたので意表を突かれた思いでいたら
ハンチングは丁稚が被るものだ、学校の生徒が被るものではないと元士官からとどめを刺された
職業にも貴賎があったのか
装束がまだその機能を果たしていた最後の頃かと思いだす。
そういえば兄貴の結婚式にも学生服で参列したなあ、当時は標準服等という持って回った言い方はしなかったのに
女子は標準服を着なくても好いのに男子はなんで標準服を着なくてはならないのだと不満を漏らす声もなく
服装に気を掛けることもなく過ごせるので都合がよいといえば都合はよいが標準服を脱ぐ時期にいたると
センスが悪く着こなしがなっていないのとで敵を取られることになるのだが先のことはとりあえず考えない主義に冒され
黙ってハンチングを元居た箪笥の奥にしまい込む
それから幾星霜、今では、
若者がハンチングを被り
老人がキャップを被るのも許されるようになり
男女差別も少しは減ったのか
かっこよくハンチングを被る女性も現れ
あれあれと思っていたら
あれはハンチングではなくキャスケットだと叱られた
似ているようで両者には明確な差違があるそうで
単に英国と仏国との言葉の違いではないようで
若い女性詩人のAさんが朗読しながら深々と被っていたのがキャスケットなのだなと今にして思う。





「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、流川透明さん。



自由詩 キャスケット病 Copyright あおば 2012-04-13 22:23:44
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