夜間遊泳
風呂奴

屋根の上に寝そべって
星空宛に 音楽を流していた
8月の夜だ
外灯で催される カブトムシの集会
縁側の鼻歌は 風鈴のしわざで
首筋にぶつかる風の粒子は
いつまでも柔らかい気がした


散りばめられた夜空の宝石
まるで図工室の床一面にこぼした 多彩なスパンコールの要領で
なんとなくずっと見ていたかった
拾いたくない美しさや 届かない美しさ
8月の屋根の上 夜風と星の合間では
思い出が行ったり来たりする

涙が屋根を伝わぬように
炸裂する光の沈黙へ
目を釘付けにしてみた
もう音楽は聞こえないのに
左胸は震えていた
道路を挟んだ 向かいの林からは
虫たちの賑やかなセッションが
風にそっと揺られていた


そして呼吸の音だけが
星空と僕とを繋ぎ止め
気が付けば 夜空が濡れている
サカナが釣れそうで 湖みたいで
黒々とうねる空の色
世界の音は途切れ途切れて
しまいには 鼻水の音に千切られる
(もう寝ようか 今夜も昨日にしまわなきゃ)
翌日もまた屋根に登ろう
おやすみついでに 視線をあげる

星たちが 滲みながら
その湖を泳いでいた


自由詩 夜間遊泳 Copyright 風呂奴 2012-04-03 01:29:39
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