不思議な扉 
服部 剛

今僕は、東京へと走る列車に乗っている 
結婚前の妻と出逢ってからの数年間 
毎日顔を見ない日はなかったが 
今日から三日間 
我が家を離れ、旅に出る 

今僕は、妻と幼い周から 
どんどん離れて、列車が加速するほどに 
(僕等は三人なんだ・・・)と実感しながら 
脳裏に浮かぶ夜空には 
三ツノ星がえにしの糸で結ばれて 
不思議な三角形の星座をつくっている 

これから東京駅で新幹線に乗り 
約1年前の震災が無数の家族を引き裂いた 
福島・宮城・岩手へ走る 
暗闇の空間を通過する時 
僕は一体、何を思うだろう? 

早くに別れる家族があり 
遅くに別れる家族があり 
いずれの家族も 
三人なら、永遠とわなる三人 
五人なら、永遠なる五人 
として 
いつか離れれば離れるほど 
僕等の不思議な心は幾重にもかさなり 
いつもともにあるだろう 

  * 

旅の始めに、地元の駅の本屋に寄って 
鞄に入れた一冊の本を、取り出す。 

ランプの灯の下で 
世を去った愛するひとと 
透明の手を重ねて 
思いを綴る作家の本を 
ぱっと開くと、本は語った。 

「亡き人は、悲愛の扉から訪れる」 








自由詩 不思議な扉  Copyright 服部 剛 2012-03-13 18:52:54
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