黄昏は逃避行
アオゾラ誤爆
湯気の立ちそうな/
あなたの/
血色のいい/
頬に触れた。
声とも吐息ともつかないふうに
「あ」
漏らしたあなたはわたしをみて、
泣きそうな顔になった。
そこそこに使い古した安価な国産車は、
とぽとぽと頼りなげにガードレールの横につけると
礼儀の正しい子どもみたいに丁寧に停止した。
「だめ」
言葉に意味はのらなくても間がもたないので
しかたなく発音するほかにない。
どこか混乱ぎみの
わたしのくちびるは
ちいさく震えながら
すっかり硬くなってしまったあなたの視線から
もう逃れられないことをさとった。
(しまった。)
しろく/
にごる/
フロントガラス
その向こう、よく知らない土地の
ガイドブック通りでないありさま。
冗談を抜かしあうには
つめたすぎる、熱すぎる、
「ねえ、」
瞳で合図して。もどかしいから。
あなたの太い腕がわたしに届こうとする
無骨なつくりの左手は
控えめに服をすべり、
取れかけのプラスチックのボタンに
そっと手をかける。
(爪、きれいに切りそろえられている)
もうすこしで日が落ちる
聞きなれた喧騒からは100キロも離れた地図上の
★
(
ホシ
)
新しくぜいたくな空気を
肺いっぱいに吸い込めるような木立の海
「もう、どこへもゆけない
こんなところまで来たのに」
小高いこの場所からは集落が点々とみえていて
あなたの緊張した睫毛をぼかしたり
迷いなく伝わる熱についての思惑を
ひっくりかえしたりする、
「あ」
「ねえ、」
「だめ」
じっとしていると
時間が止まってしまいそう。
カーステレオからは誰かの声が能天気に響いている
自由詩
黄昏は逃避行
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アオゾラ誤爆
2012-03-09 03:07:50
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