イーハトーヴの国
服部 剛
生まれ育った故郷の林が大好きな
賢治の妹トシは額に汗を滴らせ
まぶたの裏に
この世という牧場の出口で
風に開いてゆく、木の扉を視ていた
息を切らして、家に戻った賢治が
震える指で、ましろい指に渡す
二本でひとつの、松の針。
うれしそうに受け取った
緑の針で頬を撫でれば
トシの寝顔は
一瞬火照った、幼子になり
ましろい指からふと、落ちて
枕に置かれた、松の針。
細い寝息で夢見るトシは
くらかけ山の麓に広がる草原に、独り立ち
ひとつひとつの草々が
遥かなる
永劫
(
カルパ
)
の風にめらめら踊り
透き通ってゆく全ての景色の背後から
イーハトーヴの国が
あらわれる
自由詩
イーハトーヴの国
Copyright
服部 剛
2012-03-06 23:43:41縦