美人の母をもちたかった
天野茂典

 

  美人の母をもちたかった
  美人の母をもちたかった
  母は美人でもなければブスでもない
  母は書道の師範の免許を持っているが
  教養がなかった 尋常高等小学校しか
  でていないからだ
  ぼくは教養のある母をもちたかった
  ぼくは教養のある母をもちたかった
  母は社交ダンスにのめりこんでいた
  本を読みだした 大正琴を弾き始めた 
  母はカラオケにのめりこんだ
  ラジカセで何度も何度も練習していた
  母は我慢強かった
  店の経営の危機を何度も立て直した
  母はへそくりまで持っていた
  現実的に強いのだ けして逃げない  
  父は苦労すると酒におぼれた
  かつての優等生だった
  頭がよかった ハンサムだった
  でも母の支えがなかったら店はとうに
  潰れていただろう
  いままでぼくは母を恨んできた
  ぼくの頭の悪いせいと 顔の悪いせいは
  母からの遺伝のせいだと
  がぼくはこのごろ見直している
  母がいなかったら ぼくたちの生活は
  どうなっていただろうかと 顔だけじゃない
  教養だけじゃない 生活してゆくための知恵が
  必要なのだと 母の評価がわってきてるのだ
  ぼくも鈍才だった自分をあまり責めないようになりつつある
  それでもぼくは
  美人の母をもちたかった
  美人の母をもちたかった
  とくりかえすのだ
  教養のある母をもちたかった
  とも・・・・・



         2004・12・01



未詩・独白 美人の母をもちたかった Copyright 天野茂典 2004-12-01 08:23:43
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