大人の味
Tシャツ
僕病院エッセイはもう書かないと言いました。でも、病気とは直接関係が無いので書こうと思います。
僕のベッドの隣。アニキが退院した後に来たおじちゃん。どこぞの会長さん。毎日スーツを決めた、とんがったサラリーマンが会長!ってやってくる。僕の隣に会長がいる…う〜ん。すごい。きっと僕が配膳された昼ごはんを見て、ここは昭和か!?昭和の食卓か!?このおひたしはなんだ!?昨日も出たぞ!残してやったがな。ガハハなんて一人で下らない事を考えている時。隣の会長はベットの上で、やってきた社長と、どこぞの会社が裁判でとか、株を何千株って聞こえてくる。あ…これは株のおひたしかな?なんて僕は思う。すごいおじちゃんだけどいいおじちゃん。暇そうな僕に話しかけてくれる。少しづつ、色々な話をしてくれる。商売の仕方とか、部下の事とか、薬の事とか、車の事とか、病気の事とか。僕は話すのがあまり得意じゃないけど、聞くのは大好きだからずっと聞いている。
ある朝おじちゃんが僕にいよかんは好きかい?って聞いてくる。おお!僕の大好物は正にいよかんだぜ!大好きです!大好物です! おじちゃんはにっこりすると、かばんをごそごそする。僕はベットの上でもういよかんの食べ方を考えている。必要最低限のものしか持ってきていないから、ナイフもフォークも無い。ならば男らしくむいてがぶりだな!でも気をつけろ、汁がシーツに垂れてしまうかもしれないから…ふふふ。 これこれお見舞いで持ってきてくれたんだけど、好きなら君も食べなさい。トラヤって有名な所のだよ。 ほほぉ、いよかんにも高級産地があるのか!なんてこった!最高の朝だよ!僕はそう思っておじちゃんの手元を見る。箱を持っている。大きさはB5用紙程の大きさ。
あああああああ!!!僕は気付く。これは、ようかん…そしてこの世で一番嫌いなもの。僕はあんこや和菓子の類が、本当に嫌い。 色んな味があるんだよ。好きなのを取りなさい。 く…っ! はい頂きます… 普通の・抹茶・梅・コーヒーようかんが三口サイズほどに分けられてビニールに包まれている。僕は出来るだけ、出来るだけ和菓子から遠いコーヒーを選ぶ。 ワァ ウレシイナァ。僕は大人だ!二口でいく。あああああ…苦い……甘い、これは…一体。
…大人の味か…! コレハトッテモ オイシイデス。トラヤッテスゴインデスネ。僕は自分がようかん好きであるという設定を忘れない。 そうかそうか、もう一ついきなさい。
僕はおじちゃんの好意がうれしくて、大人の味を覚えた。