六時間の結晶
komasen333

ジミヘンとはまるで正反対の極致よりあなたは燃やした。真夜中
何年かは知らんけどずっと手にしてた愛機と思わしきエレクトリックギターに火をつけた。




田舎だから   まだよかった。
ダイオキシンとかうるさく流行る前だったから   よかった。




呼び出された私はまだ厨房でした。
右も左もわからぬくせにわかっているんだけどわからないふりをしているキャラを演じていた。   
ああ、なんと懐かしい。




ついでに言の葉を添えられました。
「もう、区切りをつけることにした」       まだまだこれからだろってときに。


察したかのように、さらに追加。
「もうこれ以上やっていっても知れてる
 アイツが出ちゃったから、もう今さら出てけれても二番煎じ」




悦に入っているとはこういうことかと思いました。
足りない細胞を駆使するまでもなく。




生意気にならぬようにそっと嗾けることにしました。
「六時間の日々を続けてきた。
 これからも、途切れるときまで続けられそうな人が何を言うか!」と。




順序立てて理想に辿り着くために必要なものだけを耽々と習得していける秀才さん。
冴えないセンスも、濃密な時間とともにカバー。
足りない理論も、濃密な時間とともにカバー。
未熟なスキルも、濃密な時間とともにカバー。


1番近くで見ていたわたしに限らず、周囲からすれば、あなたは紛れもなく桁違いでした。
「こういう人を天才というんだな」と誰もが思うような人でした。


「あなたがあきらめるというなら、ほとんどの非凡が平凡と成り下がるに等しい」と、
精一杯の賛辞とも嫉妬ともつかぬ言葉を発しました。




聞くまでもなく発するまでもなく、あなたはあなたにしかできない微笑で答えました。

「天才とか神童とか、色々形容されるたびにいつも虚しさを感じていた。努力しか能がないだけなのにって。端的にいってしまえば、疲れた。ある程度にまでまとめたものをしかるべきところに出して、一度、一定の評価が下されればそれでもう十分」




「六時間の日々はどうするんです?僕なんかまねしようとしてもできない。努力しようとしてもとてもできない。あなたのようには。濃密な量と質を保った六時間の結晶化を投げ出すんですか?」




「いや、それはもう日常の一部のようなもんだから当分まだまだ続ける。中毒みたいなもんだから。ただ、演者になるのはもうやめたってこと」




それを聞いた途端
発する言葉という言葉は、まさに枯れるように途切れた。



ああ、六時間の結晶化は続けていくのかと。
その事実を知りながら僕は表舞台にふらふら上っていけたとして、劣等感を来る日も来る日も感じずにはいられないのかと思うと、絶望以外の何ものでもなかった。


自由詩 六時間の結晶 Copyright komasen333 2012-01-18 12:32:00
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