スペースシャトル/フォーカス
茶殻

雪の降る日のテーブルの上に
スペースシャトルが落ちた
私のいくつかの記憶を載せたものだ
それは言葉を発することはなく
極めて無機物的なたたずまいをして
かたまりのままのマーガリンを積むトーストの傍ら
やわらかく重力に寄り添った


私は泣くことも出来た
笑うには穏やかな悲しみがまさっていた
もう一度どこかの惑星に向かうとは思えなかったのだ
かすかな食欲に従い
トーストにシナモンと砂糖をまぶして食べた
薄いめのインスタントコーヒーも飲んだ
それらは徐々に私の体温に馴染んでいった
一通りの食器を片付け新聞を畳むと
真っ青な砂漠の上で
さらにスペースシャトルは目立つようになった


客席はなく
私の生活はみな暗幕の中での静物だったのだ
童話の挿絵のなかで固まってしまったかさぶたが
虚空の彼方からぽとりと落ちてきたのだと思った
灰のようなにおいをまとって
音のないジオラマに老翁と老婆が生活を始める瞬間に
窓の向こうから煙が立ち昇ったのが見えた


コートを羽織り私は出かける
シリンダー錠を閉めて振り向いた途端
帰宅する頃にそれが解けてなくなっている確信が
強くなった
ケヤキの黙秘は誕生と死別の空間をにおわせ
それぞれの体温の中で
春がふつふつと沸き立つ音がしている
薄くにごる雲の往来
私達の季節の立体、猫舌の朝はねずみ色の息をしていた


自由詩 スペースシャトル/フォーカス Copyright 茶殻 2011-12-16 23:03:41
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