リバー/アナログ
茶殻

すけべな川魚は岩陰で寄り添い
すべて水泡に帰す愛の歌を歌う
ゆうべ降り続いた嵐で濁る川面
ゆらぐ光は泥にまみれ畳を編む



水のない街で雨を待つアスファルトの灰の色
灰のない街に沈む鉄のタバコの海の底



ナイターが終わり
球場は改めてもぬけの殻になる
忘れ物がある
「夏」とか「少年」とか
およそ取り戻せないものは
忘れられていくに決まっている
平等な遠心力が僕たちにかかってるならば
背中の方にひびが入る仕組みに説明がつく



バックネットを伝って音が登っていく
僕の声が
さまざまなフェンス越しに
粗挽き肉のように咀嚼されることを考える
僕が
さまざまなフェンス越しに
粗挽き肉のように咀嚼されることを考える
大きな大きな自由のカタマリなんかなくて
引っ繰り返された賽銭箱のようにそれは転がってる
トリュフを拾い集めるあの初老の
丸まった腰にのしかかる重力がイメージになる



どこかで
愛の言葉が
そんな風に
吹かれている
挽かれている
けれど
そうならないものは
必ずあるんじゃないかと思う
とてもとても高く上がったフライを落球した外野手
キャップを深くかぶり
バスに乗り込んだ姿は
愛を金属に喩えたことの罪滅ぼしのようだった


何を思いつめることがあるの?

誰も彼も同じ約束をポケットにしまいこんで
あふれさせているの


【バスが少しずつ膨らんでいく】
【浮かぶ】
【風に泳ぎごろんと転がる】
未来都市の哲学に向けて
ごろごろとまわるキャタピラ
聖母の子宮から滴る雫を
プラスチックに変えていく
【密林から現れた風船】
【革命が始まった】
【月が急いている】
強いものも儚いものも
潮流には抗えないまま
単純なものへの憧れが
頑丈な骨の傘を吹き飛ばしてしまう



雨の降らないビルが燃え続けていて
定点観測のカメラは昨日のコピーを映した
カプセルから這い出たものは
全部灰になって
散り散りになる
精密なドキュメント


そういう夢



自由詩 リバー/アナログ Copyright 茶殻 2011-12-15 01:58:53
notebook Home 戻る  過去 未来