壁画
岡部淳太郎

僕たちは立っていた
路上に立ちつくして
いつ訪れるかわからない
僕たちをどこかに
連れていってくれるであろうものを
ひとすら待ちつづけていた
僕たちは整然と列を
乱さずに立っていた
僕たちはそこに大勢でいながら
それぞれにひとりきりだった
このあつまった孤独
その中で僕たちの残りの時間は
少しずつ削られていった
僕たちは立っていた
路上に立ちつくして
ひたすらに待ちつづけていた
もういくつの風が僕たちの
鼻先をかすめ僕たちの満たされない
願望を刺激したことだろう
そんなこともわからなくなり
僕たち自身が何者であったのかも
わからなくなって久しかった
僕たちはどこにも行けず
どこにも連れていかれず
それでもなお立ちつくしていた
夕陽が僕たちの正面から射しこみ
背後の壁に僕たちの影を長く
ひたすら長く引き伸ばして
映し出していた
そのいくつもの暗い影の
重なりはまるで壁画のようで
あるいは僕たちの失われた心をそこに
焼きつけたかのようでもあった
こうして僕たちのうちがわは印され
僕たちが滅んだ後もなお残る
そして色のない無惨な壁画として
美しく鑑賞されいくつもの
言葉を費やされるのだ
僕たちがどこにも行けず
どこにも連れていかれず
ただ立ちつくしていた
そのことの記念のように
僕たちの影で描かれた壁画は
億年のちの新しい
僕たちの目の前に
黙示のように現れるのだ



(二〇一一年十一月)


自由詩 壁画 Copyright 岡部淳太郎 2011-11-27 22:02:30
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