あの頃の青年
服部 剛
仕事帰りの若いサラリーマンが
夢庵でネクタイを緩めて
しゃぶしゃぶ定食を食べていた
思えば僕にもそんな
寂しさにみたされた夜があった
職場の老人ホームで
お年寄りが喜んでくれた日も
何故か埋まらぬ
たった一つの穴があった
今・僕には互いの足首を結んで
不恰好にも、二人三脚する妻があり
胸に
抱
(
いだ
)
けばあったかい赤子がおり
今日は恩師の先生と
久しく語らう昼の食卓に、妻は
おいしい和食を運んでくれた
車で駅へと送った別れ際に
定年を過ぎた先生の素朴な瞳が
いつになく輝いていた
今日という日を
思い返す夢庵にて――
少し背を丸めた若いサラリーマンは
レジで財布を開いている
時折街で見かける
寂しげな青年は皆
あの頃の自分に似た
黒い影を地に落としているので
その都度僕は
(良き出逢いを――)と呟きながら
家路につく
いつもの
灯
(
あかり
)
が窓にともる
我が家の方へ
自由詩
あの頃の青年
Copyright
服部 剛
2011-11-03 23:53:08縦