花電車
あおば

          111010




花電車がやってくる日に
チョー簡潔な祝いのお品
チョコレートのパイを焼く
暖かいうちに運ぶんだ
横断歩道の先にある
プラットフォームには人だかり
ケータイを握りしめ
デジタル一眼を構え
コンデジを差しあげ
脚立に仁王立ちする者も居て
反対の方向を睨んでる
33年ぶりに花電車がやって来るというので
人が集まっているのだと知る
もう5分もすれば来るんだから
買い物なんかは後回しにして
見物していきなさい
少しもったいぶった紳士が言うので
それもそうかと自転車を止め
ケータイカメラをチェックする
おかあさんも花電車を見たんだよとメールするんだ
近頃は嗜好が細かくなって
ひとはひと、じぶんはじぶんと付和雷同を煙たがり
関心のないものには少しも心を動かさない
だから
自分の好きなものだけでこの世界は立派に成立して居るんだと
うちの息子は言いたそう
お隣の紳士はどこの誰かは知らないが
いい大人の私を捕まえて
見て行きなさいと言う
お節介かそれともお人好しに見られたか
少し口惜しいが
周りには人が集まってきて
凄い騒ぎ
警備の係員も声を枯らす

チンチンと予定よりも少し遅れてやって来たのは
チョコレートの美味しそうなケーキが載った
花電車というよりもケーキ電車だ
少しでも景気を良くしたいのか
お伽の国の香りを運び
花嫁御寮が立ち去るように
しゃなりと音を立て
あっという間に通り過ぎたのが
33年ぶりの花電車であったのだが
一瞥した人々は一瞬にして居なくなり
3分後にはいつもの穏やかな沿道に戻り
我に返った私も夕食のメニューはなんだったのか思いだそうと
自転車のペダルに力を込めて
走り出そうとしています。





登場人物
私 買い物途中のおかあさん 家には大きな息子がいる ケータイカメラ
紳士 地元企業の社長さん 鉄オタ歴 50年以上 デジタル一眼
脚立の男 気の好い鉄オタ壮年 デジタル一眼
作者 根性無しの元鉄オタ コンデジ
警備員 鉄道関係の壮年
私の隣の青年 夜景も撮影するのだと大型三脚を携えている デジタル一眼
その他大勢の老若男女が ケータイカメラやコンデジ、ビデオを手に待ちかまえ
ていて車道にはみ出しそうな案配、警備員の声も自然と高まる
















動画↓
http://www.youtube.com/user/aoba20071107#p/a/u/0/Z0F8gcMafaQ


自由詩 花電車 Copyright あおば 2011-10-13 11:54:14
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