ピエロ・ing・ファンファーレ
茶殻

内股のピエロが鼓笛隊を従えて軍歌を奏でる九月の終わり
空腹を満たせ とデモをする している
電柱のてっぺんでカラスまでもが歌っている
反対側で 空腹をごまかせ と公務員とレスラーが徒党を組んで立ちはだかる

今から惣菜を買って帰ります と母からメールが来る
  Re:もう少ししたら帰ります
このまま彼らは互いに左車線をすれ違うだろう
守るべきルールを遵守するだけのシンプルな理由で/僕たちはピストルを持たない

自動販売機の前で 硬貨の投入口を覗いている娘を誰も咎めはしない
仕組みは知らない方がいいものも割合多いけれど
小銭に夢を見ず育ったやつにろくな大人はいないと知っている
それとは別に 自らを殺したことのないやつは信頼しないことにしている

一世紀 二世紀 と焼べて弔う推理小説
善いことをする している
無駄なことをする している
ジュテイム ジュテイム と十手を振り回し叫ぶ無神論者の行進/新しい座標軸に飛び移る鳩の消失

標榜されたラヴに生き埋めにされた浮気性の市長が祈る
ミニマムの不幸と
ミディアムの幸福
黒髪の神父にもまた鼻血を拭ったあと

彼に家族がいる
彼らに家族がいる
僕に家族がいる
家で生き埋めになって待っている している 空腹 名前さえ持たずに/それも愛なの?

「『春はすぐ腐ってしまう』 と君が言ったことを思い出す
 僕もそう思う と答えはしたけれど
 どの春の話なのか僕にはわからなかった
 どの春もそうなのかもしれなかった」

トランペットが不在の鼓笛隊には
ソプラノリコーダーを構えて並んでいる小学生の男の子
僕の小指が届かなかった場所には もう穴がない
やさしくなったのだ/黙っていても音は肩を組む/わをん

プリンを買ってきてくれないか との父からのメール
スーパーではすべての商品がプリンのふりをしていて
仕方がないから一番やわらかそうなものをレジに持っていく
追憶 メールの字は震えないからいいよな 父の笑い皺

今日は誰の葬儀だったか
粛々と式が進行していく間 僕は何かとんでもないことを想像し
とんでもない想像の結末に少しだけ泣いたんだ
遺影を焼き増ししてくれないか/写真も死体も焼くものに変わりないんだね

家に帰り着くと 先に帰宅していた母が
ハンバーガーを食べながら通販番組を見る 見ている
父は行進があったことも 僕が泣いたことも知らずに 
天国の根っこで鈴のないタンバリンを叩く 叩いている だろう


自由詩 ピエロ・ing・ファンファーレ Copyright 茶殻 2011-07-30 22:41:57
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