にんにくしっくねす
松岡宮

ここはどこだろう 

花の香りがする

しろつめ草が脚にからみつく
薔薇の指先が頬をつついてゆく
そして たそがれ
わたしの身体がいつしか黒百合に包まれてゆく
地平の果てまで咲き乱れる 黒い手首 黒い手首
やがて わたしの身体が 落ちる
その穴に落ちたら もう もとには戻れない 
そんな 穴へと

ある朝目覚めたら わたしの身体は「にんにく」になっていた
教室に行けば 女の子のお友達が 遠ざかっていった
男の子たちは わたしに声をかけなくなった
すみれの押し花をしおりの代わりに 
休み時間には本を読んで過ごす
いち にの にんにくしっくねす

だけど まだわたしは
わたしの身体が「にんにく」になったことに 気づいていなかった
悪臭を放つ 存在だなんて 判らないんだよ 自分では
夜空のカーテンにブローチをいくつもぶら下げて
誰か 一緒に旅に出かけませんか

お母さんはマスクをしながらわたしにご飯を作ってくれた
お姉ちゃんはマスクをしながらわたしに勉強を教えてくれた
(お父さんはしっくねすに気づかなかった)
やがて とうとう やぶやぶ医院で診断がくだった
医学書にはまだ載っていない 
いち にの にんにくしっくねす です


それはなんだかよくわからないが ずっと それが そばにある

いじめられていたわけじゃなかった
みんな みんな 優しかった
だから まだ 自分が「にんにく」だってことに 気づいていなかった頃は
お母さんにプレゼントをあげたいな すみれの香りのネックレス
お姉ちゃんともお話したいな 耳たぶを噛んで内緒のおしゃべり 
女の子のお友だちにも話したいことがいっぱい 別冊少女フレンドの付録について
それからね それからね
男子とも もう一度くらい おしゃべりがしたい
男子とも もう一回でいいから 手つなぎ鬼ごっこをして 走り回ってみたい

ごめんなさい

ごめんなさい

うすい笑顔の降り積もった校庭に 黒い花びらが広がりはじめる
あのどこかに穴があいている
あのどこかに穴があいている
そして たそがれ
わたしの身体がいつしか黒百合に包まれてゆく
地平の果てまで広がってゆく 黒い手首 黒い手首
やがてわたしの身体が
落ちる

この声が あなたに 届きませんように

http://youtu.be/B0IJn9e6ZGo


自由詩 にんにくしっくねす Copyright 松岡宮 2011-07-18 18:56:33
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