魔女の娘は
佐々宝砂

私の娘に出会ったら
どうか伝えておいてください
何一つ伝えるもの残すものはないのだと
ただそれだけを伝えてやってください

私が道のそこかしこに置いた石に
あのこが躓こうとも
教えられようとも
そんなこと私の知ったことではない

あやしげな石像に
どんな赤い花を供えたらいいかなど
決して教えてやらないでください
ひらひらとてのひらを動かして
口の中で唱える言葉など
ひとつたりとも教えてやらないでください

あのこの父親のことなど
教えるのはもってのほか

ほのめかしさえ禁じるべきです

幼いあのこは
やがてはこの冥い道をゆっくりと歩き出すのでしょうけれど
そんなこと私の知ったことではない

ただ
まあ

お乳がほしくてなきわめくときだけは
渇きを満たしてやってほしいと
そんなことを言う
私はたいへんわがままですが
そんなことは伝える必要もなく
あのこも理解するはずです

魔女の娘は魔女ですから

このうちの東北にこんもりとしげる
あの冥い森に
ひょこひょこ頭を出す真っ白なきのこ
あの使い道なども伝えなくていいのです

私の娘に出会ったら
鼻であしらって
おまえの母親はおまえに何も残さなかったし
伝えることもなかったのだと

冷笑しながら伝えてください

それですべてが伝わるはずなのですから

それですべてが


自由詩 魔女の娘は Copyright 佐々宝砂 2011-05-15 02:23:02
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