家探し/宿無し
茶殻

単身赴任の父ちゃんが、
短期休暇を貰って帰ってきている日、
ぽつり ぽつり と温かい犬が降ってくる
灰色の空から降り落ちる黒い雨とは好対照に、
青い、とにかく青い空から、
主に茶色、のコーギー、と、千切れた雲のようなマルチーズ、
それと少しのミルクが

ぼくは家族と
あたらしい家、を、
さがしに来ていた、けど、
ぼくにはわからないことばかりだから、
お墓のカタログを、見ていた
お墓には
キッチンも、リビングも、
町内会もなくていい
駅からの距離は気になるけど、
そもそもぼくが死んでしまったら、
ぼくが出歩くことはないわけで、
それなら騒がしくない場所の方がいい
空気がきれい、とかね、
普段はあまり気にしないこと、
虫は好きじゃないし、
夜はコンビニの明かりが見えるところがいい、
そのあんばいはむずかしいね

死んだあとに、
ほんとうに石に魂が宿るなら、
黒く光るミカゲ石じゃなく、
駐車場に落ちているような、
ブゼンとした石がいいな、
ぼくが蹴っても怒らない、ような石
そうだ、ちょうど、
降ってきたはいいが、
行くあてのないあのコーギーが、
おしっこひっかけても怒らない、石

家を売る人に、
ペットが飼えますよ、と、
父ちゃんと母ちゃんは、
勧められて、困った顔をしてる、
何もそれを言うために犬のかぶり物までしなくてもいいのに、
あと、わがやに住むペットは、
犬じゃなくてフェレットのジロー君、4歳です
誰もいない家にいる、というのはどんな気持ちなんだろう
ジロー君はハチ公みたいな忠実さで
ぼくたちを待っているのかな
それは、お墓にいる、みたいな気持ちで
ぼくたちがお墓に行く日が来ても、
それともジロー君は猫かぶりをやめて、
たばこをくわえてるのかな
医者の前でだけうつむいていたじいちゃんみたいに

大きな買い物だから、と、
ぼくのお墓選びと同じように、
戦利品はカタログ数枚ぽっきりで、
それじゃ世間話をしたいだけみたいだ、
冷やかし、ではないのはわかるけど、
犬の被り物したままのあの人が、
ガラスの向こうでしょぼくれる姿が、
タクシーを待つ間、ずっと見えた
いつも、こう、なんだろうなぁと見ていたら
頭上の犬が赤黒く乾いた舌を出した

タクシーが滑り込んできて、
タイヤに弾かれた石が、
転がってきたんだけど、
石は怒る様子もなくて、
ぼくの墓にしようと思って拾った、のに、
タクシーを降りてから、車の中に、
それを忘れたことに気付いて、
落ち込んでたら、
家のそばのコンビニのまえで、
ぼくの頭にコーギーが降ってきて、
父ちゃんがそれを庇ってくれて、
コーギーのことを責めたりもしなかったから、
ハロー、と呼びかけて、
去っていく、
コーギーの墓を、
見つけるために、
折衷案、
ティラノザウルスの化石、に、
ぼくは住めないだろう、
けど、
コーギーなら、
いいんじゃないか、
空から降ってきた、宿無し、な、わけだし。


ああ、それでもまだ、
下界は
あたらしい家族ばかりだよ。


自由詩 家探し/宿無し Copyright 茶殻 2011-05-09 23:28:54
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